戻れない場所、戻らない人――The Best Of My Love
Eagles "The Best Of My Love"(1974)
終わってしまった恋。幸せだった時間を取り戻すことはできないけれど、それでも僕は君に " the best of my love " を捧げるよ――
私が最も好きなイーグルスの曲。
何がいいって歌詞がいい。巧みな押韻もさることながら、 " every night " から歌い起こし、思い出と夢の中をさまよい、 " every morning " まで繋がっていく流れが素晴らしい。
主人公と恋人は、手に入れた幸せを維持することができなかった。彼らは危機を乗り越えようとしたけれど、口を突いて出たのはざらついた言葉。お互いに理解し合ったつもりでいても、それは十分ではなかった。
大切なのは、この歌が別れの瞬間を描いたものではないということだ。主人公にとって別れは既に過去のできごとであり、毎晩ベッドの中で思い返すものなのだ。どんなに手を伸ばしても、そこに届くことはない。
そうした全てを理解した上で、それでも、別れた相手に " the best of my love " を捧げると歌う。未練がましいと切り捨てるには、あまりに純粋すぎる。
そして、ドン・ヘンリーの歌声。終わった恋を歌いながら下手に感傷的になりすぎていないのは、彼のハスキーでアダルトな声が為せる業だろう。
それでいて、ニヒルになりすぎてもいない。この絶妙なバランスが保てているのは、たぶんヘンリーの息の抜き方のおかげだ。語尾の息づかいで歌詞の細かいニュアンスを出すのが、彼は抜群にうまい。この曲や " Desperado " " Wasted Time " などのバラードでは、特にそれが際立つ。
他にも、イーグルスお得意の美しいハーモニー(ランディ・マイズナーの高音は本当に絶品なのだ)や、12弦アコースティックギターとスティールギターの音の広がりなど、魅力に言及していけば切りがないのだが、結局は「一度聞いてくれ」という言葉に尽きるだろう。
この後、主人公は新しい恋に踏み出すのかもしれない。けれどその愛の " the best " は、永遠にただ一人の相手の元に残されたままなのだと私は思う。
人生のどこかに自分の一番大切なものを置いてきたことが、あなたにはあるだろうか。